広告研究

「レシートは、希望のリストになった。」コロナ禍の消費行動に光を当てたコピー。


2021年、そごう・西武の企業広告です。SNSでも話題になったコピーですね。コピーって、やっぱり「発見」なんだなぁと改めて感じます。

これは、2020年、6月から11月までの西武・そごうでのお買い物の記録。

スーツケース 662個
口紅 76,175本
浴衣 475着
ハイヒール 1,001足
ベビーギフト 566個

新型コロナウイルスで行動が制限された2020年。
それでも、自由に旅行できる日のために662人のお客さまが、スーツケースを購入された。
マスクの下でもメイクを楽しみたい76,175人のお客さまが、口紅を購入された。
夏祭りは中止だったけれど、浴衣は475着。
颯爽と街を歩く日を待ちながら、お求めになったハイヒールは1,001足。
生まれてくる命を、566セットのベビーギフトが全力で祝福した。
足踏みばかりの日々であっても、一人ひとりの「私」は、今日を楽しむ工夫を続けた。
お買い物の記録に教えられた、大切なこと。
百貨店が売るのも、お客さまが欲しいのも、ただのモノではないということ。
百貨店が売っていたのは、希望でした。

希望を買いに来てくださった全てのお客さまに、感謝します。
あなたの希望のリストは何ですか?
わたしは、私。

レシートには、生活の痕跡がある。

コロナで鬱蒼とした時代に、ちいさく、でもたしかで、つよい光を当てています。「希望はここにちゃんとあるよ」って、両手で拾って見せてくれるようなやさしさがありますよね。

みなさん、コロナの影響で人間関係の衝突や他人への疑心暗鬼が、少なからずあったと思うんです。体だけじゃなく、心にまで距離ができてしまった。でも、僕はこの広告をみて、他人を見る目がやわらかくなったんですよね。

閉塞され抑圧された世界のなかでも、みんな一生懸命、生活を輝かせようとしている。百貨店という場所には、そんな一生懸命な想いを抱えて買い物に来た人が集まっていることを、このコピーが教えてくれました。

だから、自分だけじゃなくて近所の人や、ただすれ違う人たちの姿を愛おしく感じるようになったんです。

コロナの感染が爆発していた時期って、人と会う機会も会話も必要最低限になって、それぞれの生活が完全に見えなくなったんですよね。

だけど、レシートには、その痕跡があった。

この生活への希望の痕跡がレシートにある、ということを発見し、光を当てたことに、僕は感服します。

コロナ禍だったからこそ再発見できた、レシートの価値だと思います。

もう世界をみる眼が美しい。僕もそんな眼を養いたい!と思いました。