広告研究

なぜ「おいしい生活」は、名作の広告コピーと評価されているのか?


コピーライターを目指していなくても、一度は耳にしたことがあるであろう「おいしい生活」。

なんでしょうか、こう、広告コピーのラスボス(※敵じゃないですけど)みたいな存在ですよね。

現在、株式会社ほぼ日を経営する糸井重里さんの名作コピーであり、代表される作品です。

この広告コピーをきっかけにコピーライターを目指す若者が急増したといいます。さらに、名作コピーを集めた「日本のコピーベスト500」では第一位に選出されるほどで、同業者からも非常に評価が高い広告コピーなのです。

ですが、なぜここまで評価されているのか?正直、ピンとこない方が多いのではないでしょうか?

でも「言ってることはわかる」みたいな感覚はあると思います。

まさにその感覚をすでに持っていることに、このコピーが評価される理由があるんです!

そこで、本記事では「おいしい生活」がなぜ名作コピーとして評価されているのかについて研究・解説をします!

おいしい生活。

1982年 西武百貨店(現 そごう・西武) 糸井重里

バブル経済へ向かう時代で生まれた言葉。

おそらく、リアルタイムでこの広告に触れていない人は、このコピーのすごさにピンとこないと思います。ぼくもそうです。

それは当然で、時代背景が全然違うからなんですね。このコピーが誕生したのは1982年。バブル経済へ向かっていくなかで、消費行動が盛んになる気配が強かった時代です。

まさに、〝消費の快楽〟が表現された言葉なんですね。それを感じさせるのは、やはり「おいしい」という言葉にあるでしょう。

そもそも「おいしい」を辞書で引くと…

お‐いし・い【美=味しい】 の解説
[形]《味がよい意の女房詞「いしい」に接頭語「お」の付いたもの》
1 食べ物の味がよい。美味だ。「うまい」に比べて丁寧・上品な感じが強い。「魚の―・い店」「山の空気が―・い」
2 自分にとって都合がよい。具合いがよい。好ましい。「そんな―・い話が、あるはずがない」
引用元:goo辞書

基本的に1の「食べ物」の味に対して使うことが普通ですよね。それが、このコピーでは「生活」に対して使われている。すると、「おいしい生活」は2の意味として捉えることができそうですが、これだと少しニュアンスが違うと思うんです。実際そのまま言い換えてみると…

都合がよい生活。
具合がよい生活。
好ましい生活。

ぼくは、このコピーにおける「おいしい」とは「豊かさ」を表していると思うんですね。つまり、1の「食べ物」の味に対して使う意味で得られる体験です。

食べ物を食べて「おいしい」と思った先に感じる喜びや満足感や幸福感。それは豊かさの象徴でもあります。これを生活と結びつけたことが、発明だったのでしょう。

「生活」を新しい感性で捉えさせた。

「おいしい」を「生活」に結びつけた発想の原点ですが、糸井さんが飛行機の機内食でお茶漬けが出てこなかったことに対して「味気ない」と不満をこぼしたことにあるそうです。

つまり、「おいしくない」経験をされたわけです。

基本的にみんなが感じているんだけど言葉にできていないことを言葉にするというのがコピーライターの役割ではありますが、 「生活」に対して「おいしい」「おいしくない」と捉えた糸井さんの感性を人々に芽生えさせたことが、このコピーのすごい点だと思うんですね。「広告が文化を作っている」と評され、広告業界が盛り上がった理由もわかります。

で、「おいしい生活」以降に生まれた人たちがこの広告コピーに対して「なんとなくいいコピーなのはわかるけど、なにがすごいの?」という感想になるのは、きっとすでに「おいしい」という表現の文化に触れているからなんですね。

例えば、お笑いです。

「おいしい」って、ウケた時に使われたりしますよね(正確にいうと、棚からぼた餅のような流れでウケた時)。「お前、おいしいなぁ〜」ってやつです。

諸説ありますが、ダウンタウンの松本さんが広めた表現として知られています。つまり、こういった言葉に対する感性に生まれた時から囲まれているわけです。

だから、「生活」に対して「おいしい」と感じることは全然、変ではない。でもそんなに衝撃的な発見でもない。

このコピーが名作と評価されている理由にピンとこないのは、生まれ育った時代背景も影響しているのでしょう。

まとめ:研究すればするほど偉大なコピーだった!

これまでになかった、もしくは気づいていなかった感覚を人々に芽生えさせたこと。

これは、いわば人の感受性を目覚めさせたようなものです。この広告コピーが名作と評価される理由はそこにあるんですね。

コピーのすごさばかり語ってしまいましたが、消費行動が上向く時代にあわせて百貨店が発信するコピーとして筋も通っているし、販促促進がされています。広告コピーの機能もちゃんと果たしているからすごいです。

ただ、繰り返しになりますが、やっぱりそれを「おいしい」と「生活」を組み合わせた新しい6文字の言葉で表現したことが偉大です。

生活に対する捉え方や景色が変わり、人の感受性を高めたといえるコピーだと思います。

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