広告研究

「おいしいだけで、けっこう伝わる。」夫婦の絶妙な距離感が愛おしい広告。


夫婦喧嘩のあと怒っている妻に、夫が最初にかけるべき一言。
久しぶりに再会した娘に、父親が最初にかけるべき一言。

家族とはいえ、なんだか気まず〜い雰囲気の時ってありますよね?ぼくも弟が一人いるんですが、家族でいるときはワイワイ喋っていても2人きりになると、急にお互い無言になって喋らなくなったりします(笑)。

なにか言わなきゃいけない、言いたいことがあるのに、最初の一声がつっかえてしまう。

そんなやさしい人に見ていただきたいのが、明太子で有名な博多の企業「やまや」さんのCM。2018年に日本最大級の広告賞「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」で、ゴールド賞を獲得したというCMです。

家族との絶妙な距離感、間合いがたった15秒で描かれていて、心を掴まれます。

おいしいだけで、けっこう伝わる。

2018年 やまやコミュニケーションズ

「おいしいね。」

このたった5文字の言葉のラリーなのに、思わず微笑んでしまいます。

このCMを見て「確かにこういう場面って、よくあるよなぁ〜!!」と、めちゃくちゃ共感しました(まぁそれだけ妻に謝っているということですね…(笑))。

「おいしいだけで、伝わる。」と、断定していないのがいい。「けっこう」という言葉が入ることで、言葉を発するハードルが下がる気がします。「ほら、言ってみ。ちゃんと伝わるよ。」って、背中を押される感じです。

「嬉しいな」
「楽しいな」
「頑張ろう」
「大丈夫だよ」
「よかったね」
「ありがとう」

ほんとに「おいしい」だけで、十分伝わるんじゃないか、と思ってしまいます。
むしろ、「おいしい」のほうが伝わりそうな気さえもしてきます。

でも、それは「食卓」という場面だからこそ生まれる体験ですよね。

明太子を販売する「やまや」さんが発信すべき広告にちゃんとなってます。家族で向かい合って食事することには価値があると、改めて認識させてくれる広告です。

CMは先ほど紹介した「夫婦篇」と、「父と娘篇」「同僚篇」の3つあります。

どのパターンもそうですが、お箸と器が触れるかちゃかちゃした音、鍋のぐつぐつした音、部屋の空気音など、食事の音がちゃんと引き立っているのがいいなぁと思います。そういう日常の空気感が土台にあるからこそ、「おいしい」という言葉のサイズとか重さがしっかり伝わります。

余談ですが、「家」っていろんなコミュニケーションの場がありますよね。玄関、リビング、キッチン、寝室、お風呂…。過去の広告でも、これらの場面が持つ「家族の文脈」を生かしたものがたくさんある気がします。

でも、よく考えるとトイレがパッと出てこない…。家族の文脈がどうしても薄い気がする。なんでやろ?何かアイデアが眠ってそうな気配がします。