仕事術

すべての仕事は「言葉」でつくられる。

言葉はもっともコスパがいい。

どんな仕事でも共通して大切なこと。それは「言葉」だとぼくは信じている。

その気づきを得られたのは、勤務先での経験のおかげだ。もう10年近くお客さんの心に触れるためにレスポンス広告を作り続け、いくつものパートナー企業の方とディスカッションを重ねてきた。

かつ、社内ではマネジメントする立場でもあり、部下に発信したり、部下から受信することも、何度もくりかえしてきた。

…で、最近その経験値がある地点に到達したみたいで、「言葉」の重要性に気づけたのだ。

それは、多くの人がある目的(課題解決)に向かい、いっしょに進むための目印として「言葉」はもっともコスパがいい、ということ。「言葉」は多くの人に流通しているツールで、伝達するときも「話す」「書く」どこでもすぐにできる。ただ、手軽さゆえに最も事故を起こしやすいツールでもある。

ビジネスシーンでたまに見かける「いい感じにしといて」。

例えば社内で、あるいは当事者同士で「いい感じ」とはどういうものなのか、共通認識があったとしても、それはかなり「危うい」。なぜなら、企業文化や制作物の意図や目的、これらが完全に同調することは、ぼくはかなりレアケースだと思うのだ。

そういうコミュニケーションでモノづくりをされている瞬間を何度か目にしたこともあるが、仕事に対する姿勢とか感覚…すこしへんな言い回しになるが、「魂の高さ」が同じときしか「いい感じ」は通用しない。

だから、いろんな事情と思惑をもってあつまるビジネスの場において「いい感じ」で通用することは、ほとんどないと思った方がいい。

なので、ぼくは「言葉」の解像度はなるべく高くないといけないと、思っている。

抽象的なことをなるべく具体的に。

赤ちゃんの仕草をみて「かわいい」と思う感情もあれば、老夫婦が仲良く手をつないでいるのをみて「かわいい」と思う感情もある。

感情だけじゃない。ピンクが「かわいい」色だと思う人もいれば、黄色が「かわいい」色だと思う人もいる。

もっといえば、この靴のピンクは「かわいい」けど、こっちの靴のピンクは「かわいくない」と、デザインが影響して意見が変わることもある。

ようするに、抽象的なことをなるべく具体的にしないと、思わぬところで認識がズレてしまうのだ。

とくにクリエイティブな仕事の場面では、これを何度も深く掘ってようやくお互いに近づいていくものだと思う。そして、それだけやっても完全一致がむずかしい。

「言葉」はあらゆる仕事で重要なツール。

でも「言葉」の解像度が限りなく近い状態で共有できていると、制作物のクオリティとスピードが間違いなくあがる。

広告の企画内容や文章、デザイン、写真などあらゆる要素がブレずにハマっていくから、そういう瞬間はほんとうに気持ちがいい。そして、これは制作の仕事に限らない。

ぼくは普段、いわゆる「プレイングマネージャー」と呼ばれるポジションで、スケジュール確認とか報連相に対してフィードバックをする「マネジメントとディレクション」を日々、くりかえしている。そういった部下や組織全体へ伝える場面で「言葉」の解像度が高いとしっかり伝わるので、期待以上の反応が得られることも多い。

ところが、解像度が低いと誤解を生んだり、ひどいときは真逆で伝わっていたり…こういう経験を広告制作の場面や、社内のコミュニケーションで何度も失敗をしてきた。もちろん、今もかわらず失敗はするが、最近少しずつ意図したとおりに伝わる場面が多くなってきて、成功体験も確実に得られてきた感覚がある。

「言葉」は具体的な「行動」を示す。

この「言葉」だが、そもそも受け取る側との「信頼関係」が築けていなければ、いくら具体的だろうが、まったく意味をなさないのも事実。

言うまでもないが、やはり信頼を築くには「言葉」だけでなく「行動」も必要だ。

しかし、むやみやたらに行動したのでは意味がない。その信頼を築くための「行動」(目的)を具体化させるのも、やっぱり「言葉」だと思うのだ。

だから、仕事を前に進めるときも、マイナスになった関係を築きなおすときも、どんなときでもぼくは「言葉」の「旗」をたてることを、いちばん大切にしている。